8年前に日経BPに寄稿した記事ではマーケティング・クオリファイド・リード(MQL)をマーケティングの目標設定の中心となる指標として説明しました。最近ではForresterの「Say Goodbye to MQLs, Hello Opportunity」レポートのように、B2Bマーケティングにおいて、従来のMQLから、より現代の購買プロセスに適した「オポチュニティ」への転換が議論されています。
MQLは単一のリードに焦点を当てるため、購買意思決定プロセスを反映していない。実際には、B2Bの購買決定は複数の人々や部門によって行われる 。そのためMQLから商談(クローズ/ウィン)に至る確率は非常に低く、MQLは収益の目標達成に寄与しない 。MQLやMQAの代わりに、オポチュニティセグメントを活用することで、より強力な購買意図のシグナルを捉え、顧客のニーズに応える長期的なマーケティング戦略を構築できるというものです。
ようやくMQLを中心としたマーケティングを確立した企業にとってはまたプロセスを変える必要があるということですし、そもそも営業プロセス全体を俯瞰した最適化の一部分としてマーケティングの位置付け・評価軸を変えていくのは企業として時代の変化に対応するために不可欠な流れです。
とはいえMQLの考え方が不要になる訳ではないので、以下に過去の記事の内容をあらためて紹介します。
事業の営業目標を達成するには、最終的にどの製品を何本売るかまで踏み込んだビジネスプランを作成し、それを達成するための営業計画を立てます。マーケティングも、その営業計画のどの部分のどの割合に対して責任を持つかを明確にしたプランが必要になります。これは営業との合意の上で設定するものです。
セールスのパイプラインには、MQL以外にも当然営業が自分で見つけてくる引き合いや増設・戦略的なプロジェクト案件もありますから、マーケティングが100%先導するケースは、純粋なスタートアップなどの場合に限られそうです。
特にB2B製品の場合、製品の特性や市場の成熟度によってマーケティング部門が貢献すべき割合は大きく異なります。ここでは、私が担当した企業のデータを参考におよそ売上高の40%程度がマーケティング主導と仮定します。
その売上高の40%を達成するには、製品ごとに売上本数・平均単価・案件の平均勝率を調べ、最低限必要なパイプラインの案件数(≒MQL数)を割り出し、年間に必要なMQL数をKPIとして設定する必要があります。
さらにこのとき、MQLからCLOSE(商談成立)までにかかる所要期間も重要な変数です。平均して12カ月でCLOSEする商材と3カ月でCLOSEする商材ではマーケティング活動を実施する期間の意味合いも変わってきます。
MQL数が定まると、次はベンダー自身が責任を持つ割合と代理店自身が責任を持つ割合を設定します。例えばベンダーが知名度もなく顧客認知度(Awareness)をゼロから立ち上げるから活動を始めなければならない状況では、既にネットワークを確立した代理店のマーケティング活動を支援して、代理店自身がMQLを獲得する比率を高くすべきでしょう。
ここには最適な配分となる黄金比はありません。ただし、代理店が様々な競合製品を含むラインアップでプロモーションしている状況では、ベンダー自身のマーケティング活動とデジタル技術を駆使したMQL獲得数を増やす必要がありそうです。
ここまで述べたように、マーケティングプランの作成段階では「割り算」がポイントになります。目標を達成するために必要なものを定め、そのために必要なことを明確にしていけば、進捗の把握も容易になります。これはマーケティングに限らず、事業計画全般に通じる考え方だと思います。資格取得のような、個人のプロジェクトなどにも応用できそうです。
図 マーケティングの目標設定
図を追って説明しましょう。具体的な営業目標を実現するための、パイプライン目標を設定します。この設定は、過去の実績から統計的に割り出す企業が多いでしょう。ここまで述べたように、パイプライン目標の40%をマーケティング部門が、残りの60%を営業部門と継続や増設の案件で補うとします。
このマーケティング部門の持ち分のうち半分はベンダー直接で残りを代理店とした場合、(40%の半分に当たる)20%はベンダーのマーケティング部門の責任で達成する必要があります。さらにその手段をオフライン(展示会、セミナー、テレマーケティングなど)とオンライン(Web、SNS、メール)に分け、それぞれの活動ごとに、何件のMQLを目標にするかに分解します。
その結果を合計すれば目標を達成できるはずです。もし仮に目標に届かない場合はどうしましょう。
予算には必ず限りがあります。予算の範囲内でROIの高い活動を増やすよう活動のバランスを調整します。もしそれでも足りない場合は、コストダウンを図り、さらに多くの活動ができるような方法を模索します。最後の手段としては、追加予算を求めて社内営業するといった活動の可能性も残っています。またパートナー企業のMDF(Market Development Fund)の活用も忘れてはいけません。
ここで仮にオンラインとオフラインの割合を半分ずつにするとパイプライン目標の40%のうちの半分の半分となりますから、10%がオンラインの持ち分となります。このように分解すると、注目を集めているデジタルマーケティングは、パイプライン全体のわずか10%にしか貢献しない計算となります。
これを受け、他の手段への予算配分を減らしてデジタルにシフトする(オンラインの持ち分を増やす)プランを考えるか、それとも全体のバランスを考慮したプランを作るかが、B2Bマーケターとしての腕の見せ所となってきます。これ以外にも、代理店主導のマーケティングをいかに伸ばすかとか、オフラインの展示会やイベントをどう組み合わせるのかとか、(オフラインに含まれる)テレマーケティングをどう活用するのかなど、様々なマーケティング活動を組み合わせて最大のROIを実現するプランを作成します。
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