第53回 BtoBマーケティングの次なるフロンティア:行動経済学に基づく顧客獲得とLTV最大化のための戦略的フレームワーク
- ito4001
- 10月30日
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今回は、「BtoBマーケティングと行動経済学」を特集します。かつて「BtoBは理論、BtoCは感情」と区別されていた時代は遠い昔。今や、意思決定を担う購買担当者の多くが、理屈だけでは動かず、「人間らしい」心理や無意識の影響を大きく受けているのです。
【なぜBtoBに行動経済学が欠かせないのか】
ハーバード大学の研究によると、人間の意思決定のうち実に95%が無意識のうちに行われているそうです。さらにVML社の調査では、BtoB領域においても購買の66%が感情に左右されていることが明らかになりました。
これは「BtoB購買は合理的な企業判断によってのみ行われる」という通説に、一石を投じる発見です。
購買担当者は、組織の責任を背負う一方で、キャリアや評価も気にかける「ひとりの人間」にほかなりません。だからこそ、「損失回避」「社会的証明」「ナッジ」といった行動経済学の原則を活用し、意思決定の心理に寄り添ったアプローチ設計が、これからのBtoBマーケティングにおいて不可欠となっています。
BtoBマーケティングにおける行動経済学の必要性
従来型マーケティングの限界:合理性の神話
多くのBtoB企業は、長らく「客観性の罠」に陥ってきました。これは、「企業の購買決定は完全に論理的で、経済合理性のみに基づいて行われる」という誤った前提に依存するマーケティングアプローチを指します。このモデルでは、製品の機能、価格、ROI(投資対効果)といった客観的指標を提示すれば、顧客は合理的に最適な選択をすると考えられてきました。しかし、この見方は現代の購買行動の実態を捉えきれていません。
ハーバード大学のジェラルド・ザルトマン名誉教授が提唱した概念として広く知られているように、人間の意思決定の95%は無意識下で行われており、感情が重要な役割を果たしています。さらに、VML社のInspire studiesによると、BtoBの購買決定において感情的要因が占める割合は66%に達し、合理的要因の34%を大きく上回ります。この背景には、BtoB購買特有の「ハイステークス(高いリスク)」な性質があります。BtoCの購買(例:シャンプーの選択)における失敗は個人的な小さな損失で済みますが、BtoBにおける数千万円規模のシステム導入の失敗は、担当者の評価やキャリアに直接的な打撃を与えかねません。この「失敗への恐怖」こそが、損失回避性や社会的証明といった心理的バイアスを増幅させ、意思決定プロセスをより感情的なものへと変質させるのです。したがって、BtoBマーケティングは単なる情報提供ではなく、購買担当者の「感情的なリスク管理」を支援する活動として再定義される必要があります。
新時代のBtoBリアリティ:複雑化、自己主導化、そして停滞する購買ジャーニー
現代のBtoB購買環境は、かつてないほど複雑化しています。この変化を理解することが、行動経済学の必要性を浮き彫りにします。
複雑性:意思決定者の増加
かつては数名の担当者で完結していた購買プロセスは、今や平均13人のステークホルダーが関与する集団的意思決定へと変化しています。これは、単一の製品評価ではなく、多様な部門の利害関係者間での複雑な「合意形成プロセス」となっていることを示唆します。
自己主導化:営業担当者不要の潮流
購買担当者は、営業担当者と接触する前に、購買プロセスの大部分を独力で完了させています。Gartner社の調査では、BtoBバイヤーの61%が営業担当者を介さない「担当者フリー」の購買体験を好むと回答しており、この傾向は自己主導での情報収集と評価が標準となっていることを示しています。
停滞:確信の欠如が引き起こす意思決定の麻痺
この複雑化と自己主導化は、皮肉にも意思決定の停滞を招いています。Forrester社の最新報告「The State Of Business Buying, 2024」によると、BtoB購買の実に86%がプロセス途中で停滞するという驚くべき実態が明らかになっています。これは情報不足が原因なのではなく、むしろ情報の洪水の中で、多数のステークホルダーが「この決定で本当に間違いないのか」という集団的な確信を持てずにいる「確信の欠如(Confidence Deficit)」が根本原因です。
これら3つのトレンドは独立した事象ではなく、相互に関連し合う因果関係を形成しています。すなわち、自己主導化による情報収集が情報の非対称性と過負荷を生み、複雑化した13人の購買グループ内での合意形成を困難にし、最終的に意思決定の停滞を引き起こしているのです。
この状況において、現代のBtoBマーケティングが果たすべき役割は、単なるリードジェネレーションから「確信の醸成(Confidence Generation)」へとシフトします。そして、その確信を科学的かつ体系的に構築するための強力なツールこそが、行動経済学なのです。
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